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chokokoreito

ちょここが毎日をまったりと生きています。

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◆ちょここれいと◆



空想メトロでフルハウス【ちょここ青春日記】

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平日の昼下がり。

まだ開発途中の駅前を抜けて、私はひとり改札を通り抜けた。

 

当時の横浜市営地下鉄は、開設されたばかりということもあり、真新しい電車とホームが新鮮で、春らしい空間に感じられた。

乗り込んだ車両に居たのは、たった3人のおばあさん

 

「あぁ、年配になっても友達と仲良く出かけられるのって、素敵だな」

 

これから始まる空想メトロ。この時はまだ、想像もしていなかった。

 

 

 

 

スリーカード

新社会人。

右も左もわからない、世間知らずの二十歳の私。 

 

調剤薬局に就職したものの、配属されたのはOTCのみを扱うチェーン店のドラックストアだった。研修で教えられた医療事務の知識を披露する機会は一度もないまま、1ヵ月が経過した。意味がなかったとは思わないが、なんだか拍子抜け。

 

品出しをして、お客様にトイレの場所をお教えして、レジを打って…。

 

学生時代のアルバイトと同じだ

大きな調剤薬局店舗に配属された同期達は、レセプト・コンピューター(医療事務用のパソコン、レセコン)を打って、現場で多くのことを学んでいることだろう。

 

差をつけられた。

これは結構、劣等感を感じてしまう?

 

今日だって本当は休みの日だったのに、倉庫の整理という名目で3時間だけ出勤した。汗だくで段ボールからトイレットペーパーを出して出して出しまくったのに、帰りに「お疲れ様」も言ってもらえなかった。

 

なんというライトな存在。短大卒と専門卒で差別されてるのかな。

 

ま、それはそれで。

誰からも期待されていないのならラクチンだよね。

 

 

 

おばあさん達が急に大爆笑したので、ビクッとなった。手を叩き、体をよじって顏をクシャクシャにしている。私の経験上、3人組の女はロクな関係じゃない。ひとりが不在の時は、その人の悪口を言って、帰ってきたら知らんぷりするんだ。

 

そんな次元の人達ではないか。

私の3倍以上生きてるなんて、いろんな苦労を潜り抜けてきたのだろう。もしかしたら、言葉を交わさずとも意思の疎通ができる能力とかあったりしてね。何もかも見透かされそうな、綺麗な瞳。しかしよく笑う。電池切れないのかな。

 

 

 

心地よく揺れていて、だんだん眠くなってきていた。ガタンガタン。地下鉄という割には、意外と地上を走る電車…。

 

 

 

フルハウス

駅に着いた。シューッと扉が開く。乗って来たのは、おじいさんの2人組。

 

ちょっと笑った。

だって、おばあさん3人組の隣にピッタリとくっついて座るんだもの。

 

座席はいくらでも空いているし、わざわざ隣に座らなくてもいいのに。やっぱりいくつになっても女性が好きなのか。それとも私の前に座りたかったの

 

なんつって、とにかく可愛らしいお年寄りたち。

 

話し声は、圧倒的におばあさん達の方が大きい。3対2だから当然かもしれないけど、人数だけでない力強さがあった。ガーデニングしたとか、孫がどうしたとか嬉しそう。

 

それに比べるとボソボソと話すおじいさんペア。どうやら釣り自慢をしているみたい。手を横に広げて、目を見開いて見せる白髪紳士。

 

いいですね。

友情って素晴らしい。

キラキラしてる。イキイキしてる。

 

 

 

 

 

赤3枚の黒2枚。

 

 

急に頭の中に浮かんだ。

おばあさんが3人とおじいさんが2人でフルハウスの完成。

 

 

 

 

ブホッ

ヤバい、ツボった。

なんだこれ、普通に女性3人と男性2人じゃないし。おばあさん3人とおじいさん2人だし。相当強いデッキじゃん。

 

年齢を合計したらLevel300は軽く超えるし… ウホホォ~

この陣形、崩したくない。

 

 

電車は走る。シニアを乗せて。

 

 

 

 

ストレート

期待はしていなかったけれど、おばあさんチームとおじいさんペアは、かなり長いことくっついて座っていた。途中で乗り降りする人もいたはずなのに、私の視界には入らなかった。

 

ガン見し過ぎなほどに、観察してたと思う。だって、この夢の共演から目が離せるはずないじゃない?おばあさん、今ヨダレ飛びましたよ。おじいさん、その話さっきもしましたよ。

 

 

いいなぁ、私も仲間に入りたい。

だけど年齢的に無理。っていうかフルハウスが崩れちゃう。

 

そもそもお年寄りは苦手だし…。

 

 

 

 

 

勤め先の薬局にいる常連客のことを、フッと思い出した。ほぼ毎日買い物きて、必ず1品しか買わない。昨日はサランラップ、今日は箱ティッシュ、明日は特売の牛乳石鹸

 

 

そしてトイレの場所を聞く。

いや、こないだも説明したし。忘れたのか覚えていないのか、ボケてる風でも無いけれど。

 

トイレに案内すると、別れ際に「ありがとぅ」と呟く。真っ直ぐに私を見つめて微笑む。

 

だから私も、

「いいえ」と笑顔で答える。

このやりとりも、毎回同じ。不毛だなぁ。

 

 

 

思えば、他にも店員がいるのに、あのおばあさんは必ずに声をかける気がする。

 

 

 

 

もしや私に会いに来てる?

専門卒の冴えない新入社員。ぼんやり品出しをして、寂しそうと思い話し相手が欲しかろうと、心配してくれているのか。

 

 

 

 

 

眠気が覚めた。

ドキドキして、少し涙がにじんできた。

 

あのおばあさんは薬局の常連じゃなくて、私の常連なんだ。きっと明日は牛乳石鹸を買いにくる。そして私に近づいてくる。

 

 

 

明日は私から声をかけよう。

 

「石鹸買えましたか?」

ちょっと嫌らしいな。

 

「ステキなおめし物ですね」

ババ臭いな。

 

「今日はいいお天気ですね」

もうなんでもいいか、とにかく笑顔で話してみよう。面倒だなんて思わずに、お客様というよりも、友達になるつもりで近づこう。

 

 

ストレートに伝えること。

目の前にいるフルハウス達のように、楽しくお話できるといいな。

 

 

 

 

急展開

終着駅まで、あと2駅。このまま最後までご一緒したいな。

 

 

幸せをありがとう。

フルハウスに幸あれ。

 

 

駅に着くと、ひとりの女性が乗ってきた。

年齢は恐らく80才過ぎ。杖をついて薄く色のついたメガネをかけている。ちょっと魔女っぽいおばあさんは、個性的でお洒落と言えなくもない。

 

私はガッカリした。フルハウス崩壊だよ。3対2だから良かったのにさ。魔女のせいで夢から覚めて、急に現実に戻された気分。

 

 

あと1駅、あと1駅だったのに…。

 

 

魔女はおじいさんペアの隣に座った。

 

ブホッ 並ぶねぇ。

 

 

 

おばあさん、おばあさん、おばあさん、おじいさん、おじいさん、、、

新しい陣形を左から数えていき、右端の魔女まで来たら

 

 

 

 

 

 

おじいさんペアが席から立った!!!

え、今度はリバーシ

おばあさんに挟まれたら、電車を降りるルールなの??

 

 

なにこのゲーム、  奥が深い。

 

 

 

 

ゲームオーバー

終着駅について、私は最後に電車を降りた。 

 

今日1日を思い出す

朝6時半に起きて、7時40分に家を出た。8時半からトイレットペーパーを段ボールから出し始め、途中でメリットのボトルについたホコリを雑巾で落としたり、メーカー品の口紅を色別に仕分けしたり。12時キッカリにお仕事終了。タイムカードを押して白衣をロッカーにしまい、「お疲れ様でした」と声をかけるも店長に無視された。

 

つまらなかったかな。

いや、そうでもなかった。私は単純作業が好きだし、実は品出しのコツも掴みつつある。

 

 

 

誰にも期待されていないなら、私が自分に期待してあげよう。

 

楽しいことだって見つけられる。当たり前の通勤電車だって、今日はこんなにエキサイトした。きっと明日は、もっと楽しいことを見つけられる。

 

 

 

 

空想メトロでフルハウス

ちょここの青春日記でした。